1.黒ファイ演繹 1-8 夏の夜の夢
――沈丁花の香々がした。
目を覚ますとファイは占い師にだきしめられていた。
風が揺らした風鈴の響きとともに、庭のほうから夏の夕方の匂いが運ばれてくる。
風が頬をひんやりと冷やしたので、自分が泣いていることに気づいた。
ファイは暖かい胸の中で異国の言葉を呟いた。
「あなたが、オレに夢を見せたのですね。」
占い師は何も言わずにファイの背中を優しく撫でた。
「オレは、夢の内容をほとんど覚えていません。」
「でも、とても 幸せな夢だった――。」
ファイは、優しい老婆にすがりついて涙がかれるほど泣いた。
幸せな夢は心をすり抜けて、夕闇に溶けるように消えていった。
**************
次へ
戻る