1.黒ファイ演繹 1-6 砂盤

次の新月の日、ファイは大家の老婆の家に遊びに来ていた。
新月の夜は月の城の力が弱まって戦はお休みだ。

出かけるファイを送り出す時、黒鋼はとても不機嫌だった。
送って行くと言うのをファイが断ったのが理由だとすれば、まるで子供のようだ。

(晩御飯はちゃんと準備できるように戻るからね。)

ファイは適当な身振りで気持ちを伝えると、ひらひらと手を振って出かけて行った。



大家の老婆の家は小ぢんまりとしていたが小さな庭には色とりどりの花が咲き、蓮が生い茂る池もあった。

部屋の中には使い込まれた質の良い調度品がならんでいて、沈丁花に似た香の香りがただよっている。

(なんて居心地がいいんだろう。)

ファイがしばらく庭を眺めて楽しんでいると、大家の老婆は砂の入った大きな盆をよっこらせと抱えて居間に現れた。

ファイが手伝おうとして部屋に入ってくると、テーブルの上に盆を置いた老婆はファイに座るよう促す。

砂の盆は魔法具のようで、月の紋章が入っているのが見えた。

(あれ、占ってくれるんですかぁ。)

ファイはへらへらと応じて向かいに座る。

生まれついての罪びとの自分にどんな未来をみせてくれるのかと、心の中で占いを嘲る。

その半面では、寄る辺ない不安の中で優しい老婆にすがりつきたいとも思う自分があさましい。


占い師は魔法具をはさんでファイと向かい合って座ると、いつもと変わりない様子で占い始めた。
しかし盆の上の砂はみじんも動かない。

「やはり少し、やっかいだねぇ。」と、小さなため息をつくと両手をテーブルに置くようファイを促した。
天井に向けさせられた手のひらに、皺の刻まれた温かい手がそっと重なった。


その直後、占い師が加速するように集中力を高めたところでファイはようやく気づいた。

(このひとは、夢見だ ―――― ― )



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