1.黒ファイ演繹 1-4 未来は彼らの手の中に
この頃から黒鋼は、子供に剣術を教え始めた。
もちろん、この世界に長居するつもりはないので乗り気ではなかったのだが、
夜叉王の頼みを断りきれなくなった結果だった。
夜叉王は民に武術を推奨していて、武術大会も数多く開催していた。
そこに黒鋼も数回出場しものだから、夜叉族の子供たちの間で
「破魔竜王刃ごっこ」が大流行することになる。
夜叉王は特に熱心に子供へ剣術を教えており、黒鋼がその理由を問うと「未来は彼らの手の中だ。」と答えが返ってきた。
「 子供らの心は豊かであってほしい。戦ばかりでは寂しいではないか。」
そして月の城での戦を終えた後、必ず黒鋼の傍にやってきて言い続けた。
「おまえの剣術をぜひ、有望な少年たちに教えてやってほしい。」
真摯且つ諦めの悪そうな黒い瞳に口説かれ続け、次第に断り切れなくなってきた。
「いつまで居るかはわからねぇからな。」
「もとより承知。」
こうして黒鋼は、剣術の指導を引き受けてしまった。
生徒は子供、と言っても小狼くらいの少年達で、十数人いた。
有望と言われるだけあってみな熱心だったし、やると決めればこちらも容赦なくやる。
鍛錬はたいてい設備の整った城の敷地内で行ったが、場所を変えることもあった。
時には河原で、林の中で。
真剣勝負にはその場の空気、風、光、すべてを読んで味方につける必要がある。
それでこそ相手に先んじられるというものだ。
ある日、町はずれの林を抜けた先にある野原で稽古をつけた。
この野原は小高い丘の上にあって、景下に夜叉城が見渡せる。
黒鋼は休憩時間に生徒達から「破魔竜王刃を見せてほしい」とねだられた。
それは何度目かの催促だったが、彼らの剣に対する姿勢がとても真摯なものであることが分かったので、まぁ減るものでもないかと竜王刃を見せることにする。
黒鋼が刀を構えて軽く一閃を放つと地面が割れて竜巻のように砂塵が舞上がった。
吹き飛ばされた子どもたちは黒い瞳を輝かせて転がるように黒鋼に駆け寄り、大はしゃぎだった。
「凄い!!」「おれたちにもできるようになりますか?!」
「おう、鍛錬すればできるようになる。」
「やります!」「もっともっと鍛えます。」
その姿に幼いころの己が重なった。黒鋼は思わず声に出して問う。
「強くなりたいか?」
「なりたいです!」
「――ー 何のために?」
黒鋼の表情が急に厳しくなったため、一瞬の空白があったが、彼らは口をそろえて言い切った。
「国を守るため!そして」
子供たちの笑顔が太陽のように輝いた。
「剣の道で己を知り、相手を活かすためです!!」
思いがけない、予想の3歩先をいく答えに黒鋼は思わず固まった。
「・・おまえら本当に解ってんのか?」
夜魔の国には戦争の遺児が多くいるが、彼らはこうしてまっすぐに明るく育っている。
キラキラと笑う子供たちの頭からは日向の匂いがして、それは黒鋼に、もう何年も思い出す事のなかった穏やかかな故郷の風景を思い出させた。
新緑の木漏れ日、渓流のせせらぎ。
丘の上を一陣の清涼な風が吹き抜ける。
黒鋼は晴れ渡った空を見上げて、苦笑いする。
( ったく、かなわねぇな。)
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