3.黒ファイ演繹 3-7 愛し愛されて生きるのさ
翌日、小狼は阿修羅王に連れられて町へ出かけた。
同行者は阿修羅王の側近の倶摩羅だ。
サクラは城で眠っている。
これから小狼の戦の準備を整えて、今宵の月の城の戦に備える。
三人は四足の竜に乗って移動する。
小狼は揺れるたびに吐き気を催した。
モコナはいつその時が来てもいいように革袋を広げて準備していた。
「どうした?顔色が悪いぞ。」
そう言って小狼を気遣う阿修羅王の美しい顔はつやつやだった。
「心配かけてすみません。昨日のお酒が残っていて、それに一睡もしてな・・・」
「まだ若いのに、あの程度の酒に呑まれてどうするのだ?」
阿修羅王は喉の奥でくっくと笑った。
(まだ、若すぎたのかも・・・しれま・・・)
「おお!!見ろ小狼。新しい国営の劇場だ。イメージ通りだ!」
はしゃぐ阿修羅王の視線の先には風車をかたどった塔がそびえる豪奢な造りの劇場があった。
看板には『ムーランルージュ』と入っている。
オープンの日である今日、劇場の辺りには沢山の花輪が飾られて、道化師が紙吹雪をまき散らし、黒山の人だかりが出来ていた。
そこら中に貼り巡らされたポスターにはシルクハットをかぶって空中ブランコに乗った美しい女性が描かれている。
「阿修羅王!来て下さったのですね!」
声をかけれられて振り向けば、そこにはポスターの中の女性がいた。
とても、セクシーな格好をしている。
「もちろん来るとも。ついに初演だな。火煉。」
「はい。夢のようです。あなた様がいなければこんなことは実現出来ませんでした。飾り窓の女だった私には・・・」
「だからこそ、美しく舞えるのだろう。すべてはこれから始まると思え。征一狼も、頼んだぞ。」
火煉の横で優しげな面立ちの長身の男性が力強く頷いた。
「はい。私は火煉の為に脚本を書きつづけます。」
「二人の愛で修羅の国を満たしてくれ。」
舞踏王の登場に気付いた観衆は沸き上がり、その周りを囲んで拍手で迎えた。
阿修羅王はそれを受けて艶やかな笑みを浮かべると、すっと金色に輝く杯を掲げて歌い出した。
『火煉が飲まなきゃ♪始まらなーいぞ♪』
歌に合わせて踊りだした火煉は、華麗にターンをすると王にかしずいて祝杯を受け取り、中身を一気に飲み干した。
道化師たちが歌い踊ってはやし立て、紙吹雪をまき散らす。
次に火煉の手から征一狼の手に、再び満たされた杯が渡るとき、二人は熱く見つめあった。
火煉の紅い唇が歌う。
『・・ダーダーダーダダー♪遊びじゃないのよー・・♪♪ダーダーダーダダー♪そんなの水だよー♪・・・』
征一狼は愛しい人から受け取ったアムリタを一気に飲み干した。
そのあとお約束のように征一狼からの杯が小狼にまわってくると、阿修羅王がそれを笑顔で制して歌い出す。
『小狼のターンで〜♪倶摩羅を召喚〜♪』
すると、主人と修正予算の段取りをしていた倶摩羅が飛んできて征一狼の手から祝杯を受け取った。
一同はそれを手拍子で迎えて歌い出す。
『ブーメラーン!ブーメラン!帰りの事など考えknight!!』
倶摩羅のチョイ残しはモコナが愛情で引き受けた。
そう、この世で一番素敵なことは「愛し愛されて生きる」こと。
最後の杯をモコナから受け取った阿修羅王は杯を掲げて叫んだ。
「歌と踊りの都の新たな象徴に神の祝福を!!」
阿修羅王が一気にあおって空高くほおり投げた杯が、天頂に届いた太陽の光をうけてきらめいた。
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