2.黒ファイ演繹 2-5 王様と老婆
夜叉王はまだ話し足りない様子だったが、黒鋼は帰ると申し出た。
王は風月に、と土産の酒をよこした。
それは今日二人で飲んだ酒で非常に美味であったのでありがたく頂戴することにした。
夜叉王は黒鋼を見送って部屋に戻る途中、占い師の老婆の姿を見つけた。
占い師は式服のままだった。
「こんな遅い時間までどうされたのだ?誰かに送らせよう。」
「あなた様にご挨拶してから帰るつもりでおりました。今宵の王はずいぶんと楽しそうに見えます。」
「ああ、先ほどまで黒鋼と一緒だった。」
夜叉王は頷き優しいで目で答えたが、一転して苦い顔をしてみせる。
「しかし、心配だ。あの凸凹コンビは本当に間に合うのだろうか。」
「心配は無用ですよ。あの方たちを見ている人は沢山いますから。王はご自分の事をお考えくださいませ。」
「そうだな。黒鋼と話していて自分が情けない気分になった。王としてなすべき事を選んできたつもりだったが
己の本当の望みはつかみ損ねてしまった。――ただ、まだできることにも気付いたが。」
「それは何でしょう?」
「弟とも、今日のように酒が飲めたらよかったと思った。残された時間はあまり無いが明日から羅刹を探そうと思う。」
「それは良いことでございます。今夜は星がよく見えますゆえ、羅刹様の居場所を占ってみましょう。」
夜叉王は天井を振り仰いでから困ったような顔で笑った。
「そなたはいつも見通しだな。」
占い師の老婆は優しく微笑んだ。
老婆は少し不器用で心の美しいこの王を宝物のように愛していた。
目を閉じれば幼い頃の姿が目に浮かぶ。
「あなた様だからこそですよ。」
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