2.黒ファイ演繹 2-2 夜叉城

黒鋼は軍議のために午前中から夜叉城に向かった。

この日は大変暑く、若干寝不足気味の体には照りつける日差しがうるさく感じられた。


城は二人の家からほど近くにある。

身の丈の倍ほどの黒い城壁に囲まれた入口には三日月が描かれた黒い鎧戸があり、
傍らに立つ二人の兵士は黒鋼に気付くと会釈して門を開けた。

城内の建物はあるものは低い入母屋造り、あるものは楼閣なしいて、それらを縦横に回廊がつないでいる。

まっすぐ本殿に向かう途中の廊下で、鮮やかな蓮の花の浮彫を施した扉の前に佇む占い師の老婆の姿を見つけた。

黒鋼に気付くと老婆のほうから笑顔で声をかけてきた。

「おはようございます。」

「・・・。」

「今日は良いお天気ですねぇ。」

黒鋼は当たり障りのない話を続ける気は無かったので単刀直入に聞いた。

「昨日、帰ってきたあいつの様子がおかしかったが、何があった?」

すると老婆は顔色を変えずに答えた。

「何もかわったことはありませんよ。二人でお茶を飲んで、ファイさんは庭を眺めてから、少し眠りました。それだけです。」

話す気はないらしい。
くえないばあさんだ。と思う。

不満そうな顔をみて老婆は少し笑って続けた。

「あなたは、心配なのね。」

黒鋼はさらに機嫌を悪くした。

「あんな様子は初めて見た。心配して悪いか?」

「それなら、心配してあげて。

あの子は、選ばれて生きているの。
だから今度は自分で選ばなくてはならない。

ここではあまり独りにならないように、
あなたが外へ連れ出してあげなさい。」

「…ああ。邪魔したな。」


黒鋼は含みのある言葉を受け流し、これ以上の事を聞き出すことをあきらめて踵を返した。

老婆は大きなストライドで去っていく後ろ姿を見えなくなるまで見送った。

「いつも怒っているわねぇ。それでは、まだ見えないわ。」

次へ
戻る