紅い石
アンバー 2
「数年前の話になるが、俺らは砂漠中を渡って紅い石を探した。石の力を求めたのは、親父だ。」
鷹王は盗賊団と自分の過去を静かに話し始めた。
「俺は物心つく前に盗賊に拾われた。その時に俺の生まれ故郷は根絶やしにされたらしい。
親を殺されたことを恨みに思わねえのかと聞いてくる奴もいるが、俺はむしろ不思議に思ってた。『なぜ、親父は俺を殺さなかったのか』ってな。」
鷹王の肩先にとまっていた妖精はこれ以上は耐えられないという風に、金の鳥籠の中に入ってしまった。
「血のつながった親がどんなもんかなんざここで育ったらどうでもいいことだ。盗賊やってるとそんなもんには縁が無え。俺はここで盗賊王の息子として扱われたが俺が飛王を『親父』と呼んだのも盗賊の連中がそう呼んでたからだ。
飛王が親父と呼ばれたのも見た目がおっさんだったからだけじゃあねえ。親父はこの砂漠中の盗賊を束ねて誰も飢えさせねえで養ったから組織はどんどんでかくなった。その頃は盗賊団そのものが家族のまねごとみてえなもんだった。
親父は強かった。仕事はとにかく速くて情け容赦なかった。俺はいつも近くでやり方を見てきたが、おっさんが迷うところは見たことが無え。親父は誰にも意見は求めなかった。いつも先を読んで全部一人で決めちまった。
あれは俺にはマネできねえから別のやり方をしてる。頭使うのは正義に任せてるし、締めるところは草薙が締めた方がカドが立たねえ事もある。笙悟はまあ、ムードメーカーだな。」
国王の側近として長い時間を過ごした詩人から見ても鷹王は人を引き立てるのが上手かった。
「話がそれたが、親父が迷わなかったっつうのはな、仕事に限っての話だ。
ここだけの話、たぶん誰も知らねえ事だが・・親父には盲目的に愛した女がいた。」
うつむき気味で話に聞き入っていた詩人は意外な話の展開に顔を上げた。
「ここからはちょっと気持ち悪ぃ話だから、お前ももっと飲んどけ。」
鷹王は自分と詩人のグラスにブランデーを注ぎ足した。
「親父は不細工な中年男だったが、権力にあかして女には不自由してなかった。だが、長えこと一人の女だけを特別に想ってた。その女は運河の街に住む豪商だった。」
先ほどの盗賊たちの会話に出てきた街の名。
「今の運河の街は俺らと取引したがるような胡散臭い連中しかいねえが、昔はまともな商人の町だった。その女は貿易港の元締めをやっててな、美人と言えなくもないが、何もかも見通しの魔女みてえな得体のしれねえ女だった。ずいぶん昔に死んだっていうその女の旦那と親父は血縁らしくて、親父とその豪商の女も古い知合いだった。」
黒髪で紅い瞳の貿易商の女はいつも華やかに着飾って砂漠の盗賊王を出迎えた。
「毎年親父は聖誕祭の頃になると、まるで仕事のついでみてえな振りをして運河の街に寄った。そこで豪商の女に一年かけて選りすぐった宝石で贈り物をしていた。」
サファイアの首飾り、エメラルドの帯どめ、琥珀のブローチ・・。
「だけど親父は惚れた弱みで不器用過ぎてな。あの二人は顔をあわせりゃ皮肉やイヤミの応酬で一晩中一緒にいても全くいい雰囲気にはならなかった。年に一度の逢瀬っつっても酒飲んで喧嘩してるうちにあっという間に終わりだった。
あの女は死んだ旦那が忘れられねえみてえだったが親父はそのまんまでよかったんだろう。」
鷹王はグラスに視線を落とした。
「俺もそのあたりが分かるようになってからは二人だけにしてやろうと気をまわして外に出た。俺の仕事は親父を守ることだったから、おっさんが情けねえくらい隙だらけになるその日は遊んじゃいられなかった。だから聖誕祭の前夜といえば、俺ぁ豪商の女の家の屋根の上から運河の街の夜空を見てた。」
見上げれば満天の星空。頬を撫でる潮風。遠くに聞こえる汽笛の音。
「不思議と寒くはなかったぜ。」
詩人は目を伏せた鷹王の横顔を見ていた。
「だが聖夜の逢瀬はいつまでも続くもんじゃなかった。ある年運河の街に着くと女は流行り病であっけなく死んじまっていた。それを聞いた時の親父の顔は、見れたもんじゃなかった。」
盗賊の王子は空っぽになった豪商の家の中で後悔と悲しみに打ちひしがれる父親の姿を見守った。
ついに伝える事の出来なかった想い。諦めきれなかった願い。
「そんな時、親父の前におかしな恰好をしたつぶれた饅頭みてえな顔の子供が現れた。そいつは親父に言った。"この砂漠のどこかに一度黄泉に渡った魂を呼び戻す力を持つ紅い石がある。ただしその石の力を使った者は自分の世界を失うだろう"と。
こんな胡散臭え話をあの親父が鵜呑みにした事が俺には信じられなかった。」
詩人は命の輝きを持つ紅い石の存在を自分に告げた旅行者が、ちょうど同じような姿だったことを思い出した。時代錯誤な格好をしたへちゃむくれの子供。
「こっからはもう話が見えるだろう?親父は狂ったみてえにその紅い石を探した。もうこれからのことなんてお構いなしで、失った女を取り戻すことしか考えなくなった。
盗賊団は何も知らねえまま巻き込まれたってわけだ。その頃の俺らは親父の力に頼り過ぎていたし、もともと蓄える暮らしなんざしちゃいねえからすぐに食っていけなくなってバラバラになっちまった。既に親父は自分の世界を失ってた。一度死んだ奴を蘇らせるなんざ、くだらねぇことだ。
だが俺らは信じて待った。時が経てば親父の心は元に戻るだろうと。」
誰よりも強く信じていたのは盗賊王の息子だった。ところが誰の願いもかなわないまま数年が過ぎた。
「冬になると俺らはまた運河の街に入った。すると豪商の女の家は、風変りな店になっていた。
吸い込まれるみてえに店に入った親父を、店主だという胡散臭い男が出迎えた。」
つややかな長い黒髪をした店主はアスタロトと名乗った。
"この店に入ってきたということは貴方は何かお探しですね。"
"紅い石を探している。"
"それならば素晴らしい石があります。"
店主は店の奥から持ってきた黒いビロードのケースを開いて、中身を見せた。
店主が見せたのは深紅色の輝きを放つ鶏の卵ほどの大きさのルビーだった。
少し離れた場所からそのやり取りを見守っていた盗賊王の息子には、一目でその石がこの世のものではないことが分かり、強い危険を感じた。
店主は紫色の瞳に笑みを浮かべて言った。
"これは『蘇りの石』です。この石は強い願いを持つ者を引き寄せます。きっと貴方が現れるのを待っていたのでしょう。"
盗賊王は紅い石に魅入られたように動かなくなった。
この石を指輪にして彼女の手に。
"貴方には、何に変えても もう一度逢いたい人がいるのですね。さあ、石を手に取って願いなさい。これは『契約』です。貴方の世界と引き換えに、その願い 叶えましょう。"
店主の美しい顔が冷たくゆがんだ。
盗賊王は迷わず石に手を伸ばした。
叶わない願いと知りながら、それでも伝えずにはいられなかった想い。
――も う い ち ど 。
紅い石を取り上げた盗賊王の周りを、黒々とした重苦しい空気が包んだ。
長い爪を生やした店主の手が盗賊王の胸元に触れようとした時、盗賊王の息子は長剣を抜いた。
"親父、もうやめておけ。"
その声に盗賊王が振り向いた。
鋭く踏み込んだ盗賊王子は、長剣で王を一突きにした。
叶わない願いが盗賊王の手から滑り落ちた。
飛王は自分の胸を刺し貫く息子の紅い瞳を見た。
いつでも一番近くにあった燃える命の輝きを。
"――お前が 王だ。"
それはもうひとつの 望み。
詩人は呼吸を忘れて鷹王の話に聞き入っていた。
ただ、胸が苦しい。
思い出されるのは、木の上でリンゴをかじっていた鷹王が見せた懐かしげな遠い目。
いつも彼の傍にいる水辺の妖精がうつむいた悲しい表情――。
盗賊王の息子が剣を引き抜くと、飛王は紅い石の傍らに崩れ落ちた。
返り血に染まった息子は無表情のまま長剣の露を振り払った。
その様子を静かに見つめていた店主が言った。
"顔色ひとつ変えずに父親を刺し殺すとは驚いたな。"
紫色の瞳の悪魔は口元に残忍な笑みを浮かべた。
"そのまま父の願いを叶えさせてやればよかったものを。私は女を蘇らせても、すぐに王の命を奪うつもりは無かったのだよ。"
"黙れ。"
"まぁ良い。蘇りの石に魅入られる者は他にも現れる。その石がかどわかすのは世界に強い影響力を持つ特別な魂だけ。その命を過去に閉じ込めてゆっくりと搾り取るのが、私の一番の 愉しみだ。"
盗賊王の息子の紅い瞳が獰猛な光を帯びた。
ひと飛びで間合いを詰めた盗賊王の息子は正面から悪魔を斬りつけた。
鈍い音を立てて悪魔の右腕が床に転がると、周囲は視界を塞ぐどす黒い空気に覆われ、薄笑いを浮かべたままの悪魔の肩先からは、濡れて光る黒い蛇達が這い出して傷口を塞ぐ様に蠢いた。
止めを刺すべく身構えた盗賊王子は、瞳孔の開いた眼の邪悪な光に射抜かれて身動きが取れなくなり、その場に膝を折って崩れた。
地の底から湧き上がるような禍々しい風が、悪魔の長い黒髪をゆらゆらと揺らした。
悪魔は自分に向けられた憎しみの籠った眼差しを愉しげに眺めながら、裂けた紅い唇を吊りあげて笑った。
" 憐れなり人の子。汝らは脆い。瞬く間の命を惜しむが如く、地を這いずり回る醜き姿。
だが紅い瞳の男よ。お前の魂は我々魔族に近い。それでもいつかはお前も、失った者を取り戻したいと我々の力を乞う日が来るやも知れぬ。その時には必ず 私が お前を 喰ってやろう。"
漆黒の悪魔がすっと左手を掲げると、歪んだ空間に時空の裂け目が現われた。
"わが名はアスタロト。冥府の魔王。蘇りの石はそれまでお前に預けておくぞ。"
そう言って高笑いした悪魔は黒い外套を翻して時空の狭間に消えた。
"わたしを置いていかないでくださ〜い!アスタロト様〜!!"
店の奥からあわてて出てきたへちゃむくれの子供が消えかけた裂け目に飛び込むと、辺りは何もなかったように静かになった。
**********
盗賊王子は、何もない廃屋の中にいた。
そこは数年の間、誰にも手入れされることなく放置されていた、豪商の女の家だった。
**********
「これで『蘇りの石』の正体が分かっただろう」
鷹王はそう言ってからグラスを空けた。
「・・はい。」
詩人は黙ってこぶしを握り締めた。
失った兄弟を取り戻すために次元を渡って探し求めたものの正体は、悪魔の力だった。
――アスタロト
セレスではレッドフォードの悪魔と呼ばれて怖れられる魔界の侯爵。
そんな邪悪な存在から民の心を護るために結界を張ったのだ。
しかし紅い石の正体が何であれ、セレスでの神職を弟子に引き継いで次元を渡った時から、詩人には引き返すつもりなど無かった。
一度黄泉に渡った魂を呼び戻す力が禁忌である事は分かっていたし、結界にかけられた呪いに討たれるのは本来自分だったのだから、別の悪魔との契約も時間を戻すことと変わりないように思えた。
それよりも盗賊王の物語の方がこの時の詩人を苦しくさせた。
冥府の魔王に剣で斬りかかって蘇りの石を預けられた男の過去。
「そのあとあなたは、どうしたのですか?」
詩人が問うと、鷹王は静かな声で答えた。
「一人で国に戻って、残ってる奴らにある程度の事情を話した。掟に従えば親父を殺した俺が王だが、親父の土地を捨てる俺について来るか来ないかは残った奴らが決める事だったからな。」
「それで皆、あなたに従ったのですね。」
「まあ、そうだな。皆っつっても大した人数じゃあなかったが、その中に草薙や正義も居た。一度バラバラになった組織は身軽だったし、俺は親父のやり方をほとんどそのまま引き継いだから最初のうちキャラバン生活は気楽なもんだった。ルールは単純に越したこたあねえ。それでも迷うようなら最後は俺が決める。
だが、数年のうちに今の大所帯になっちまった。一度離れた奴らが戻ってきたり、新たに笙悟のチームが加わったりでな。うちの古い連中は一緒になることに気が進まねえとこがあったみてえだが、俺は受け入れた。プリメーラが笙悟を気に入っちまったしな。」
笙悟の裏表のない笑顔は、水辺の妖精が愛す鷹王の笑顔にどこか似ていた。
「笙悟達が加わってからはここの空気もずいぶん変わった。なんせうるせえ奴らだ。だが腕は立つ。あいつら最近しょぼくれてるが、お前にはずいぶん救われてる。お前が来てからも短ぇ間にいろいろ変わったな。」
それは、宴席で金の音色を奏でる吟遊詩人の唄に映った。
ふわりと天井まで舞い上がった音色は、柔らかい光の粒になって降り注ぐ。
盗賊たちの肩に、手にした杯に。
盗賊王は、宴席の様子を遠巻きに見守った。
詩人が笑うと彼らも笑う。
―― 昔みたいに。
鷹王は、ふと何かを思い出したようにグラスを持った手で詩人を指差した。
「そういやお前が宴席で唄ってる歌だけどな、ありゃあセンスは悪くねぇと思うが、俺に言わせてもちょっと・・下品だぜ 。」
そう言った盗賊王が肩を揺らして笑いだしたので、気恥ずかしくなった詩人は言い訳をしたくなった。
「私は、一緒に歌っていると受け入れられたように思えて・・嬉しくて、少し調子に乗っていたかもしれません。あの詩は、彼らの気持ちになったつもりで書きました。」
詩人の胸に、替え歌を気に入ってくれた草薙の想いがよぎった。
「・・私には、彼らがあなたを慕い、頼りながらもどこか、気遣っているように思えました。あなたは紅い石の正体を、ここにいるメンバーには話さないのですか?」
詩人がちらと見上げると、鷹王の笑顔は消えていた。
「あの石の事をここの奴らに話すつもりは無え。ルールは単純に越したことは無いと言っただろう。あれは『余計な物』だ。」
冷たくなった声色には、石の力に対する強い拒絶があった。
それきり話さなくなった鷹王を見つめた詩人は言葉を呑み込んで目を伏せた。
迷いなく、守るべきものを守る為の選択をする人――。
(あなたの心は強すぎて、私たちを悲しくさせます。)
二人のグラスもブランデーの瓶も既に空になっていた。
「詩人、もう戻れ。送って行く。」
立ち上がった鷹王は外套を羽織った。
**********
外へ出ると外気は凍えるように冷たかった。
冷たい風に身震いした詩人を、ふわりと温かいものが包んだ。
言われるままに布の端を掴んだ詩人は黒いマントの中にいた。
鷹王の腕につかまる格好で歩く事になった詩人は、自分が情けなく、また水辺の妖精に申し訳ないような気持ちになって覚束ない足元に視線を落とした。
近くにある彼のぬくもりや匂いは、居心地が良い。
「ったく・・。お前の王は、よくもこんなに頼りねえ奴を一人で旅に出したもんだな。」
そう言って星空を見上げた鷹王は、思い出したように続けた。
「―― もうじき聖誕祭か。」
吐く息が白く流れる。
「今年の聖誕祭には、運河の街へは行かないのですか?」
「この時期にはもう行く気にならねえな。お前は知らねえだろうが、あの港町の冬はな、凄ぇ寒ぃんだぜ。」
よどみ無く流れる言葉の端に現われる小さな矛盾に、胸が締めつけられる。
「そうですか・・・。」
詩人は、自分より頭一つ分高い位置にある横顔を見上げた。
砂漠の夜空を遮るものは何もなく、二人の上には降るような冬の星座が浮かんでいた。
「俺らは星の位置読んで砂漠を渡る。親父はこの時期になるといつも、星を見上げる度にそわそわしてやがった。だから俺は、あの街が見渡せる場所に親父を葬った。」
詩人はどこか寂しげな横顔に、星空を見上げる愛しい面影を重ねた。
「私の王――アシュラ王も星を読みました。私は子供の頃から、星空を仰ぐ王の姿が好きでした。」
身寄りのない双子の幼い魔法使いを引き取ったアシュラ王は、城に居る間はなるべく二人と一緒に過ごせるように取り計らった。
星見の王は、金の髪のクレリックが紅い石に魅入られてしまった事を知っていた。
そして、その心を救う道筋がもはやひとつしか無い事も解っていた。
アシュラ王がファイに次元を渡る術を与え、異世界へと送り出した事は苦渋の決断の上での事だった。
「王は、星の軌道が決まっているように人の辿る運命や出会いにも一定の法則があると私たちに話してくれました。そして、星達がその道筋を示してくれるのだと言いました。」
「親父も昔そんなこと言ってたが、どうだかな。俺が星を見るのは、自分がどっちを向いてんのかを確かめる時だけだ。」
詩人はいかにも鷹王らしい言葉に微笑んだ。
「盗賊王。私たちが出逢ったのも星の導きでしょうか。・・・あなたは、なぜ私をここへ連れて来たのですか?」
少し考えてから鷹王は言った。
「最初はお前みたいな奴を連れて来ようなんざ思いもしなかった。」
月の下で独りきり、砂漠をさまよう吟遊詩人。
深く関わる気はさらさらなかった。
しかし、振り下ろした剣を受け止めた時に詩人が見せた必死に生きようとする表情を見て、殺す気など失せてしまった。
雲間から差し込む月光の下に現れた強い眼差し。鮮やかなブルー。
ふと歩みを止めた盗賊王は、詩人の方を見た。
鷹王にまっすぐ見つめれられた詩人は、胸に息苦しさを覚えた。
「それなのに・・どうして?」
詩人を映す紅い瞳は優しく、どこか切なげに見えた。
「放っておけなかった。お前怪我をしていたし、あの時、独りだっただろう。」
星空を映す蒼い瞳が揺れる。
力の抜けた手からマントの端が離れると、突然冷たい風にさらされた。
そこはもう詩人の天幕の前だった。
「明日の仕事が片付いたら 宴の前に俺の部屋に来い。」
あわてて頷いた詩人に、鷹王は口の端だけで笑って見せると漆黒の外套を翻した。
「じゃあな。」
立ち去る後ろ姿を見送る詩人は、魔法が解けてしまったように感じた。
「・・おやすみなさい。盗賊王。」
満天の冬の星座の下で詩人は思った。
自分は紅い石に引き寄せられてこの時この場所へ来たのだろうと。
それならば、星の底で、紅い瞳の盗賊王と出逢った事も必然だ。
詩人は闇色に溶けて消えた背中を長い間見つめていた。
♪お付き合いくださってありがとうございました♪つづく