黒ファイ演繹譚 1-2 月の城
古より、夜叉族と阿修羅族は月の城が持つ願いを叶える力をめぐって争い続けてきた。
宵の空に月が現われる時、二つの部族は天空に浮かぶ月の城へと招かれる。
まるで戦うことが必然であるかのように。
ある満月の夜、砂塵舞う戦場に、空から忍者と魔術師が落ちてきた。
黒い瞳の夜叉族の王は二人に刃を向けて問う。
「戦うか、さもなくばここで果てるか。どちらを選ぶ?」
黒い忍者は答えるよりも先に刀を抜いた。
異国の魔術師は無言で身構えた。
「――言うまでもねえな。」
忍者の一閃を受けとめた夜叉王は満足そうな笑みを見せて言った。
「ならば、共に戦おう。」
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黒鋼とファイが、次元移動で旅の仲間とはぐれてから早くも三ヶ月が過ぎようとしていた。
二人が月の城での戦争に参戦するようになってまもなく、
その存在は「夜叉王配下最強」として修羅ノ国中に知れわたるようになった。
先陣を切って阿修羅族をなぎ倒す黒鋼の姿は鬼神の如く恐れられていたし、
ファイは、誰よりも自由に竜を操り、風のように戦場を駆けた。
月の光を集める金の髪が揺れるとき、彼の矢は魔法のように敵の動きを止めてしまう。
黒鋼には君主にかけられた呪により敵に止めを刺す事を避けなければならない事情があり、それは戦場において致命的であるように思えたが、実際の所問題はなかった。
黒鋼とファイがいつも対で戦ったからだった。
この世界では言葉も通じない二人だったが、戦いの中でだけは互いにありのままでいられた。
二人が目線を交わして呼吸を読み、流れるように敵陣を切り崩していく様は誰にも止められないように思えた。
――夜叉王と阿修羅王とがまみえるまでは。
その瞬間だけは、黒鋼とファイも後ろに下がる。
二人の王が剣を交えて切り結ぶ瞬間は切ない。
強大な力がぶつかり合うとき、月の城は共鳴するように揺れた。
――何のための戦いか?
二つの部族は己の永久の繁栄を願って戦った。
二人の王はその願いこそが宿命と信じて戦った。
戦場でしか心をかわせない二人が悲しくて
今日も月の城は、震える。
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