SS #7 諏倭の国再建物語 パラレル結婚式 〜God bless you〜


青白い月光が差し込む寝室でファイは隣で眠る男の顔を覗き込んだ。
「黒様、大丈夫?」
うっすら目を開けた黒鋼は荒い呼吸の合間に返事した。
「ああ。」

ファイは手をのばして、このところ明け方頃にひどくうなされている黒鋼の顔に触れた。
額には汗が浮かんでいる。
「悪い夢でも見るの?」
返事の代わりにため息をついた黒鋼は、考え事をしながら頬に触れる手を掴んで唇によせた。
「・・・」
「・・心配してるんだよ。」
何気ないしぐさにどきどきさせられながらも返事を待つファイに、彼は思いもよらないことを言った。
「・・気乗りはしねぇが、祝言をあげるぞ。
脈絡のない言葉にファイは眼を丸くする。
「は?」
真意がわからず理解に苦しむファイ。
「ちょ・・今更どうしたっていうの?」
この国での二人の関係は既に公然と夫婦だというのに。
「このまま続けられたら身が持たねぇ・・
 くどくど説教されてちっとも眠れねぇんだよ。毎晩毎晩夢ン中に出てきやがって!」
「夢の中で?説教って一体誰に?」
黒鋼は苦々しい顔で言った。
「・・・・扇を持った 隻眼の男だ・・。」


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かくして二人は諏倭の民を招待してささやかな結婚式を挙げることになった。
黒鋼は、諏倭の人々の前で結婚の誓いを立てれば扇を持った例の男も文句は言うまいと考えた。
日取りが決まってからずっと浮かれっぱなしのファイだったが、この国の結婚式がどういうものかさっぱり分からない為、元諏倭の民に相談することにした。
そこで、元諏倭の長老である正義の祖父、長庵の計らいで、雲州稜威母(いずも)の国から神官を迎えて領主館で式を挙げる運びとなった。
諏倭は稜威母の国と所縁があり、黒鋼の両親である前の領主夫妻の祝言も稜威母の神官が取り仕切ったのだという。

黒鋼はだんだん大ごとになってきた祝言の準備の中で渋々ながらも、白鷺城の姫巫女には日取りだけ手短に知らせておいた。
これで義理は果たした、と思っていたところ、数日後には早速、姫巫女から返事の書簡が届いた。
手紙には、当日は喜んで出席するということ、参加人数は直前にならないと分からないのでどうぞお構いなくということが書かれていた。
(城の護りは大丈夫なのかよ・・しかも一言も来いとは書いてねぇし!!)
白鷺城から諏倭までの道のりは長く、往復すれば馬でも一週間はかかる為、元忍軍としては心配になった。
それから手紙にはファイの婚礼衣装については全て任せるようにと書き添えられていた。

それでもここまでは、まぁ、想定の範囲内だった。


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そんなこんなで結婚式当日がやってきた。
長庵の手引きで神官が迎えられ、領主館の祷場には供物と水が捧げられた。
稜威母の神社からは何と神主自らが巫女を引き連れやってきた。

たすき掛けで張り切るファイと諏倭の女性達が座敷にずらりと御膳を並べ終える頃、支度を済ませた黒鋼が紋付き袴姿で出てきた。
諏倭の女性達はうっとりとその姿を眺めた。
「うわあ黒様かっこいいー!!その服はなんだか桜都国を思い出すねぇ。」
「そういやあれも袴だったな。まぁ似たようなもんだ。」
「オレの衣装もそのハカマ?なのかなぁ。」
ファイに振袖を着せたがる知世姫が出してくるのはきっと・・
「いや、違うだろ。お前のはたぶん・・」
すると庭先に、黒鋼を言葉を遮る虹色の光が落ちてきた。
その光の塊がはじけて消えると中からは背の高い二人の人物が・・。
「魔女さん!!」
思わず身を乗り出したファイがその人の名を呼ぶ。
アップにした髪に長い雉の羽と黒いネットのベールがついた帽子を飾った次元の魔女は、ちょっと顔を傾けて紅い唇に笑みの形をつくった。
「結婚おめでとう。ファイ・黒鋼。」
そして黒い長手袋をした魔女の手を取るのはなんと――クロウ・リード
「お招きいただきありがとう。ささやかだがこれは私たちからのお祝いだよ。」
クロウは魔法陣柄のマントの中から金色のリボンで飾った縦長の箱を取り出して黒鋼に渡した。
穏やかに微笑むクロウと唖然とする黒鋼。
(招いた覚えは・・無ぇ!)
するとクロウのマントの襟から黒くて丸い生き物がぴょこんと顔を出した。
「それはみんなのだいすきなお酒だぞ♪」
懐かしい糸目笑いに黒鋼は思わず包みを取り落としそうになった。
「・・まんじゅう(黒) か・・?」
クロウの肩先から飛び上がったラーグに思わず手を伸ばす。

するとラーグは突然大口を開けた。
"がばぁ!!!"
中から現れたのは知世姫。続いて蘇摩、天照!
「おひさしぶり、黒鋼。見たところ元気そうでなによりですわ。ささ、ファイさん、早速着付けを始めませんと・・」
豪華衣装に身を包んだ知世姫はしゃらしゃらと髪飾りをゆらしてファイを奥座敷にひっぱっていった。
その後に続く蘇摩はうやうやしく桐の箱を抱えていた。
知世にほぼスルーされて固まった黒鋼は何とか取り繕って天照に振り向く。
「おい!てめぇらが二人揃って城空けてどうするつもりだ!?」
知世姫に劣らず豪華絢爛な衣装に身を包む天照は悠然と微笑んだ。
「この便利な口を通れば移動は数瞬。祝言がすめはすぐに城へ戻りましょう。しかし黒鋼が、ずいぶんと殊勝なことを言うようになったものですね。」
諏倭の民は日本国の帝の登場に腰を抜かした。

次に次元の狭間から現れたのは黒装束に身を包んだ3人。吸血鬼の双子と・・星史郎だった。
「ご結婚おめでとうございますーー!」
天使のような笑顔を浮かべた吸血鬼の昴流が黒鋼の手に豪華なカトレアの花束を押しつけると、腕を組んでハスに構える神威が真顔で言った。
「この男に持たせるとめでたい花束も形無しだな。」

「しかし、男同士で結婚式とは、あなたたち二人は見上げた変態ですね、おめでとう。」
そう言って腹黒く笑った星史郎の肩先で真っ黒い鳥が同意するようにカーと鳴いた。
「変態はてめぇだ!何しに来やがった!」
星史郎の存在そのものが不吉に思える黒鋼は斬りかからんばかりの勢いでかみついた。
「もちろん、大切な友人のお祝いですよ(にっこり)。」

そんなやり取りには構わず、庭の空間に煙のような次元の揺らぎが現れた。
それは黒鋼にとって見慣れた光景だった。
「やっと来たぞ!」
ラーグが耳をぴんと立ててうれしそうに叫んだ。
次元の歪みから飛び出してきたのは、花を抱えた小狼、サクラ姫、最後にモコナ!
「おめでとうございます!!!」
すっかり大人びて背が伸びた二人はクロウ国の王族の衣装を着ていた。
これは最高のどっきりだった。
「小僧、姫・・・白まんじゅう・・か?」
モコナはサクラの手から飛び出して黒鋼に貼りついた。
「くろがね〜〜!!」
小狼は礼儀正しく頭を下げた。
「お久しぶりです。黒鋼さん!」
「おう、それにしてもお前ら・・よく来てくれたな。」
「黒鋼さん、お元気そうでなによりです!ところでファイさんは?」
サクラのキラキラした瞳が辺りを探した。
「あいつぁまだ・・」
黒鋼がそう言って襟の中に潜り込もうとするモコナをつまんだ時、庭の端でわあ!と歓声があがった。

そこには知世姫に手をひかれ、雪みたいに真っ白な着物を着たファイの姿があった。
ファイは、綿帽子を被って白無垢を着ている。
ファイの打ち掛けには真珠色に輝く昇竜の刺繍が施されていた。
黒鋼は諏倭の民に囲まれるファイの姿を見ていた。
「さあ行きましょう。遠くからそんなに熱い視線を送っていたらまるでストーカーのようですよ。」
黒鋼は星史郎を押しのけた。
「うるせぇ///」


ファイは異世界からの来訪者に感激して蒼い瞳に涙を浮かべた。
昴流がカトレアの花束を改めてファイに渡すと、それを見た神威は納得して頷いた。
「嬉しいよ ありがとう〜。」
そしてファイは小狼とサクラを抱きしめた。
「会いたかったんだよ〜。」
「ファイさんとっても綺麗です・・。」
サクラ姫も翡翠の瞳に涙を浮かべている。
シャワーのように賛辞を浴びているファイに対して黒鋼は何も言わなかった。
黒鋼から見たファイの美しさは、少年の頃母親の羽衣を見て抱いた印象に似ている。
そんなもの言葉で言いようが、無い。
「甲斐性が無いのは相変わらずのようですね。黒鋼。」
隣にいた天照がにやりと笑った。


次元の魔女とクロウリードは列席者に囲まれて並んで立つ黒鋼とファイの姿を見つめた。
次元の魔女は初めて小狼、サクラ姫、黒鋼、ファイに出会ったシーンを思い出して溜息をつく。
あの時は雨が降っていた。
「ファイは、ちょうどあんな恰好をして願いを叶える店の庭先に現れたのよ。仏頂面をした忍者と一緒にね。」
「それは素敵な必然だね。」
今、二人の上にはさわやかな秋晴れの空がある。
魔女は、彼らを旅に送り出した後、雨上がりの澄んだ空に願った言葉をもう一度胸の中で唱えた。


最後に次元を越えて庭に落ちてきたのはもう一人のハンターだった。
「もうみんなおそろいかな。ちょっと準備に手間取ってしまってね(にっこり)。」
そう言った封真は小さなガラス瓶を取り出して黒鋼に手渡した。
「おめでとう。これは、結婚式には間に合うようにって侑子さんと約束していたものだ。」
「お前はいつも待たせすぎだ。」
神威が毒づく。
「ちょっとお預けが長かったかな?神威。」
封真は後ろから神威を抱きすくめた。
そのやり取りを受け流した黒鋼はとけた鉛のようなものが入った小瓶を傾けて訝しげに問うた。
「こりゃなんだ。」
「義手カバーよ。」
次元の魔女が歩み寄って答えた。
「・・今更だな。」
この頃には周囲の人々も黒鋼の剥き出しの義手に慣れてしまった。
それに次元の魔女を通しての贈り物に対して、黒鋼は本能的に警戒してしまう。
その様子を察した魔女が言った。
「それは本来義手と一緒に届けるはずだったものよ。対価は既にファイによって支払われている。
あの時―ークロウ国の切り取られた時間に送り出すタイミングには間に合わなくてずいぶん時間が空いてしまったから、使うか使わないかは自分で決めればいいわ。」
「黒様、早速つけてみようよ。」
ファイに促された黒鋼は、並んで立つ魔女とクロウを見た。
一方的に押し付けられた後でご祝儀3倍返しなどと言われたら面白くない。
その様子を察した魔女がちょっとあきれ顔で言った。
「本当に用心深いのねぇ。」
知世姫がホホホと笑う。
「番犬の基本ですわ。」
「その都度対価を払わないと安心できないというのなら、今日のあなたたち二人からいただくわ。
『結婚の祝いが滞りなく済むまで、神主の言うことには絶対逆らわない。』これでどうかしら?」
「それならさすがに黒ぽんでも問題ないよねー。取引成立!!」
ファイは半ば強引に黒鋼の手から瓶を取ると蓋を開けてしまった。
「義手の指先で触れるだけでオーケーだよ。」
と吸血鬼の爪に引っかかれた傷をさすりながら封真が言う。
早速やってみると、機械の義手はごく自然な人肌のようなもので覆われた。
「見たとこ右腕と変わりねぇな。感覚もある。」
これには黒鋼もちょっと驚いて左手でファイの手を掴んだ。
「みんな見て!爪の形まで黒たんの右手と同じ!しかも深ヅメの癖まで再現だよ。」
(俺は深爪だったの か?)
「さすがのピッフル・クオリティーですね。」
「ちゃんと体温もあるよーー。」
異世界の客人は興味津々で黒鋼の左腕にべたべた触った。
黒鋼がヤメロと叫んだ時、神主が祈り場から声をかけた。
「みなさん、そろそろ始めますよ〜。」
サクラ姫が足元のおぼつかないファイの手を取った。


列席者がぞろぞろと玄関に向かう中で、知世姫が黒鋼に声をかけた。
「ずいぶんと賑やかな式になりそうですわね。」
知世姫は黒鋼の苦々しい顔を覗き込むと、モコナによって乱された彼の衿を直した。
そのままそっと手を添えて言った。
「ことわりもなく御免なさい。でも、あなたの旅のお仲間にはお知らせしておきたかったのです。」
黒鋼はため息をついた。
「俺ぁ、お前さえ知ってりゃ良かったんだがな。まぁ、来てくれたことは・・感謝する。」

二人は神前まで並んで歩いた。



列席者が三日月の紋を掲げる祷場の席に着くと早速神主からの挨拶がはじまった。
すらりとした神々しい姿の神主は、浅葱色の長い髪をして、小ぶりな眼鏡をかけていた。
「私は稜威母の神社で神主をしている蒼石と申します。本日はずいぶんと遠くからお越しになった方もいらっしゃるようですね。ありがとうございます。」
神主はすっと笏を庭先に向けた。
ここ神州諏倭は日本国の水を統べる竜神の国。月と水はこの国の象徴でもあります。白鷺城から天照の帝と月読さまをお迎えして、諏倭のご領主夫妻の祝言をお任せいただくことをとても光栄に存じます。それでは皆様、どうぞよろしくお願いします。」

列席者一同は神主の挨拶に盛大な拍手で応えた。
口笛が飛び交い、足を踏み鳴らす者もいた。
ファイはそれをひらひらと手を振って煽り、神主は笑顔でわっさわっさと大麻を振った。
黒鋼は黙って膝の上のこぶしを握り締めた。

神主が祭壇に向かって祈祷を始めると婚礼の儀式はようやく厳かさを取り戻した。
安堵する黒鋼。
神前に祝詞をあげて祈祷を済ませた神主は列席者に振り向いて言った。
「ただいま代々神州の護りを務める諏倭のご領主さまと、風の魔法使いの奥方様との結婚を神前に報告しました。それでは新郎新夫のお二人に、夫婦のかための杯を交わして頂きましょう。」

神主は新郎新夫の杯に御神酒をなみなみと注いだ。
新郎が三々九度の杯を交わすタイミングをはかろうと隣を見ると、新夫はすでにそれを一気に飲みほしていた。
「はぁー。ねぇ黒ぽん、このお酒、すきっ腹にはしみるよー。」
その後、やけになった新郎も片手で一気にあおった。

列席者一同にも巫女が御神酒をついで回った。
「それではみなさん、ご一緒に、乾杯!!」
皆一気に杯を干し、一部の列席者は空になった杯を放り投げてから盛大に拍手した。
「ご結婚おめでとうございまーーす!」
神主が叫んだ。
「これにて二人は永久に夫婦と認められました。ハレルヤ!!」


祝言は大座敷での宴会に突入した。
床の間には白樺並木を映す湖が描かれた掛け軸と銀竜が飾られていた。
「ここが銀竜が護っている諏倭なんですね。」
師匠の破魔刀を目の前にした小狼は身が引き締まる想いがした。
御膳にはファイが手塩にかけて仕込んだ料理が並んでいる。
「ファイさんのお料理が食べられるなんて嬉しい♪」
サクラは御膳に並ぶ小さな食器達の蓋を全部開けてみる。
そこには山菜の料理が美しく盛られており、サクラが見たことのない形をした紅い葉が添えられていた。
酒宴は異世界からの来訪者と諏倭の民が入り乱れて大いに盛り上がった。
長庵は宴席で黒田節を披露すると、元諏倭の領主の祝言の席を思い出して涙した。


「さて、皆様。宴もたけなわですが、そろそろお開きの時間が参りました。」
神主の蒼石がふらりと立ち上がって言った。その頬はほんのり赤く染まっている。
「ここで新郎新夫から一言いただきましょう。」
一同は二人に向きなおって盛大な拍手で迎えた。
「今喋っても誰も覚えちゃいねぇだろうが。」
「まぁまぁそう言わずに。」
神主は毒づく新郎を穏やかにたしなめた。
「じゃあオレの分も黒様からお願い〜。」
新夫も新郎を促した。
がしがしと頭をかいた黒鋼は二人に押し出されるようにして立ち上がった。
一同の注目を浴びた黒鋼の謝辞はため息から始まった。
「こんな予定じゃなかったんだがな。とりあえず、てめえらには・・・・・・・感謝している。」
黒鋼からお礼を述べられる日が来るなんて・・・!!と、一同感激の拍手。
「それからこいつのことは必ず幸せにする。たぁ言っても今の諏倭は見ての通り人の住める状態じゃねぇから、これからこいつと、諏倭の生き残りとでやれるとこまで立て直すつもりだ。」
決意を新たにした黒鋼と、思いがけない言葉に頬を染めたファイがちらと視線を交わした。
拍手と同時に冷やかしの口笛が飛び交った。
「つい最近までは故郷に戻ってくるなんざ考えてもなかったんだが、これもひとえに力添えあってのことだ。これからも世話になることがあるかも知れねぇが、――よろしく頼む。」
黒鋼は締めくくりの言葉をまっすぐに知世姫を見て言った。
列席者一同はスタンディングオベーションで大喝采だった。
黒鋼はファイへ少しだけ微笑みかけて手を差しのべる。
ファイがつかんだ左手には確かなぬくもりがあった。


知世姫は万感の思いで拍手を送った。
その胸には元諏倭の巫女から若君を預かった月読の母心があった。
糸の切れた凧のように育ってしまった若君に手を焼いていたのがつい最近のことのように思える。
いつしか黒鋼の心の闇は祓われて、彼は風を捕まえてこの地に戻って来たのだ。
知世は、祝福を受ける頼もしい領主の姿から澄み渡る空へ視線を移した。
秋の空に流れる鰯雲に馳せる想いは ―ー ほんの少し切ない、女心。


拍手が収まる頃を見計らって神主が言った。
「それではお祝いの締めくくりは一本締めといきましょうか。それでは皆さんお手をはいしゃ・・」
『ちょっとお待ちなさい!何かを忘れているようにお見受けしますが?』
何処からかよく通る男性の声が鋭く言い放った。
柔らかいようでいてコシがある、柳のようなその声は・・黒鋼の髪が逆立った。
(出張りすぎだろうが!)
一同は聞いたことがないその声の主を探して混乱気味に周囲を見回す。
するとファイの肩に乗っていたモコナが叫んだ。
「黒鋼がファイに ちゅーー!!」
一同はノリノリの手拍子でモコナの声に乗っかった。
「キース!キース!キース!」
小狼とサクラは戸惑いながらも便乗して手拍子した。
「キース!キース!キース!」
肩を揺らして笑う星史郎を昴流が優しくたしなめながら手拍子する。
「キース!キース!キース!」
黒鋼はモコナをがしっと掴んで怒鳴った。
「白まんじゅうてめえ!いつかも言ったが、俺の国にはそんな習慣は無ぇ!!!」
ファイは以前にもこんなことがあったなぁと懐かしく思い出しくっくと笑った。
「黒んぴゅ、おめでたい席だしさぁ、そんなに深く考えずに、ね?」
ファイはこの上なく嬉しそうに自分の唇を指差して見せた。
「テメエも恥を知れ!!」
そんな様子を静かに見ていた神主が宴席の混沌を収めに入った。
「はいはいみなさん、お静かに!!お気持ちはよーーくわかります。しかし、この地この国の風習というものをまずはご理解ください。」
皆は静まり返り神主の言葉に耳を傾けた。
黒鋼は胸をなでおろした。このノリに押し切られるなど見せしめ以外の何物でもない。
「日いずる国、日本国には、八百万の神がおわします。そしてこの諏倭の地では水を統べる竜神と元諏倭の神が、風の結界を厳かに見守っていらっしゃいます。ここまではよろしいですね。」
一同は神妙に頷いた。
「そして私が仕える稜威母の神は縁結びの神様でもあります。私はこれも何かのご縁と考えます。そこで宴の締めくくりとして、集まった私たちにもお二人の幸せを分けていただくこととしましょう♪」
神主は大麻を黒鋼とファイにビシ!と差し向けて言い放った。
「それでは新郎新夫のお二人、友人と神々の御前で誓いの接吻(テーゼ)を!!」
眩暈を感じた黒鋼が次元の魔女に振り向くと、その顔にはドレスと同じくらい真っ黒の笑みが浮かんでいた。



ーーーどこからか 懐かしい3人の笑い声が 聞こえる。



パラレル結婚式 〜God bless you〜おしまい

♪ありがとうございました♪

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