SS #5  沈丁花 ~jinchoge~


ある春の夕暮れ、体育教師と化学教師は肩を並べて学園から教員宿舎への道を歩いた。

卒業式も終わり明日はようやく終業式である。

新学期の準備に追われ大忙しの日々を終え、今日は久々に二人揃って早めに仕事を切り上げた。

夕暮れの空は淡い紫色をしている。


「黒ぽんと一緒に帰るのなんて久しぶりだよねぇ。うふふ。」

水色のカーディガンを羽織った化学教師は跳ねるように軽やかに歩いた。

「ここんとこ忙しかったからな。」

黒ジャージの体育教師は威圧感たっぷりにのしのし歩いた。

「あ!ジンチョウゲの匂い!!」

突然化学教師が立ち止まった。

「沈丁花?・・・しねぇな。」

「ほら、今ちょっとだけ、風が運んできたよ。」

目を閉じた化学教師の金の髪を風が揺らした。

「・・・向こうの角を曲がった先にね、ジンチョウゲがあるんだ。ねぇ、ちょっとまわり道して帰ろう?」

「ったく、めんどくせぇ。」

そう言って体育教師が了承したので、二人は再び歩き始めた。

「この季節って出会いと別れが多くてなんだかセンチになるじゃない?ジンチョウゲの香りはそんな不安定な心のふたを開けて、記憶を呼び覚ますんだよ。」

化学教師は歌うように話し続ける。

「オレがこないだここを通った時に思い出したのはね、君が初めて抱きしめてくれた時の記憶。この花は人の大切な記憶を吸い取って、甘く切なく香るんだ。・・・この香り、好きだな。」

二人は角を曲がった。

「さぁ、結界に入るよ。」

「お。」

体育教師は鼻先をかすめる沈丁花の香りを感じた。


「そしてオレの記憶を受け取った君は・・・・・・たまらずオレを抱きしめる!!」

そう言って化学教師は両手を広げた。

体育教師はそんな彼にヘッドロックをお見舞いした。

「ぎゃぁ!!!」




確かに沈丁花の香りにはどこかセンチメンタルな気分にさせられる。

だけど体育教師にとっては、金の髪の香りの方がもっと 切なく愛おしいのだ。












~fin~


化学教師からはどんな匂いがするのでしょうね

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