#15 虹の向こう側 (1)
雪深い魔法の国ヴァレリアには双子の皇子様がいました。
ふわふわの金の髪に蒼い瞳。二人の姿は、鏡にうつしたようにそっくりです。
一日のおわりに、幼い双子が楽しみにしているのは、母親が聞かせてくれるおとぎ話でした。
二人が揃ってベットに入ると、母親は優しい声で童話の本を読み聞かせてくれます。
ドラゴンと魔法使いの物語、虹の橋を渡って旅をする冒険家の物語−−
本を閉じたやわらかな白い手が小さな頭を撫でるのが”今日のお話はここまで”の合図。
「さぁ、お休みなさい。ファイ、ユゥイ」
母親は息子たちの頬にお休みのキスを落とします。
「お休みなさいお母様」
「よい夢をーー」
双子は天蓋付きのふかふかのベットで眠りました。
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二人の皇子様が揃って魔法学校に入学すると、隣国セレスの王様は、お祝に動物を送ってくれました。
ファイには猫、ユゥイにはカナリヤ。
この国の魔法使いには、パートナーの動物と一緒に暮らす習慣があるのです。
数ヵ月後、ヴァレリア国王が遣いを出すタイミングに合わせて、二人の皇子もセレス国のアシュラ王に会えることになりました。
二人はこの日を心待ちにしていました。
アシュラ王は、二人の知る最も偉大な魔法使いでもありました。
ユゥイは学校の図書館にあるアシュラ王の本を熱心に読んでいましたし、教科書の中でも王の活躍について何百年も昔の出来事から紹介されていました。
それでも今、二人が会うことができるアシュラ王は、本の中の写真と変わらない美しい男性の姿をしています。
強大な魔力を持つ魔法使いは長命なのです。
アシュラ王の住まいは、天空に浮かぶ氷の城にありました。
王の間に通された二人は、緊張しながら玉座の前に進み出て、練習してきた通りに礼儀正しく挨拶をしました。
そして、入学のお祝いをいただいたお礼を言って、母親から預かったお土産を渡しました。
小さな魔法使いから贈り物受け取ったアシュラ王が微笑むと、ユゥイの肩にとまった赤いカナリアが歌いだしました。それは、美しい歌声でした。
「素敵な歌を覚えたね」
アシュラ王がそう言った時に、ファイの目が羨ましげにこちらを見た事に気づいたユゥイは、口元にそっと人差し指を立てて小鳥を大人しくさせました。
アシュラ王は、俯いているファイに声をかけました。
「君の猫は元気にしているかな?」
ファイは顔をあげて答えました。
「はい。まいにち沢山ご飯をたべるから、えっと、とても・・・大きくなりました」
――おもに横に。
「それは良いことだ」
ファイは、いたたまれない気持ちになってローブの袖口をいじりました。
今朝、出かける時間になっても、ファイのトラ猫は暖炉の前で丸まったまま。押しても引いてもぴくりとも動こうとしなかったのです。
「今日は、ごあいさつできなくて・・ごめんなさい」
「気にしなくていいんだよ。猫は寒いところが苦手だからね」
セレスはヴァレリアよりももっと雪深く寒い国です。
「動物たちと仲良くしなさい。彼らは目には見えない大切なことを教えてくれるだろう。毎日世話をしているうちに、気持ちは通じ合うものだってこともね」
王様は二人の魔法使いに聞きました。
「ファイ、ユゥイ、学校での生活はどうかな?」
「とっても楽しいです」
ファイとユゥイは、夢中で魔法学校のことを話しました。
新しく出来た友だちや先生のこと、魔法の勉強のこと。
王様は、代わりばんこに話し続ける二人に優しげな眼差しを向けて頷きました。
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楽しい時間はあっという間に過ぎました。
「そろそろ時間だね。まだ君たちと愉しい話をしていたいけれど、これからここにとても遠いところからお客様が来るんだ」
「お客さま?」
「そう。私の、パートナーだよ。このところ私の方からは出掛けられなかったから、会うのは久しぶりだけどね」
(!)
アシュラ王にパートナーの動物がいる事を初めて知った二人は、その動物に会ってみたいと思いました。
「アシュラ王、ボク達も、ここにいてもいいですか?」
「それは、私だけでは決められない事だな。・・・ん・・もう来たようだ」
少し考え込んだアシュラ王が不意に天を仰ぐと、王の間の時空が揺らぎ、丸い泉の水が波立ちました。
「君たちがここにいても大丈夫のようだね。少し下がってじっとしていなさい」
二人が頷くと、大きなつむじ風が起こり、アシュラ王の長い黒髪を緩やかに揺らしました。
風が王の間の天井高くに吹き抜けて消えると、そこにはオーロラ色の幻光を纏った魔法生物がいました。
(・・うわぁ!)
ぎゅうと手を握り合った双子は、息を詰めてその姿を見上げました。
時空を超えて天空の城にやって来たのは、光輝くウィンド・ドラゴンでした。
ドラゴンは大きな両翼を優雅に広げて、王の方へと長い首をもたげました。
玉座から立ち上がった王が手を伸ばすと、手のひらに頬を寄せたドラゴンは金色の目を優しく細めました。
王様とパートナーは、木の葉がさざめくような静かな言葉交わしました。
二人がどんな会話をしているのか知りたくなったユゥイは、こっそり翻訳の魔法を使いましたが、聴こえてくるのは風の歌ばかりでした。
ファイは、ただ、ただうっとりとその様子を眺めていました。
つづく
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30000HIT記念リクエストとして「小さい黒鋼さんと大人ファイさん」で承って、パラレル設定で書かせていただいています。
名瀬様、ありがとうございました(^v^)
もうしばらく続きます。
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